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コラム:起業のすゝめ(番外:日本人ミュージシャン編)

~体験記:日本人ミュージシャンのフィリピン進出サポート~

 

 

フィリピンで人気のビジュアル系バンド?

「アジアで人気のある日本のビジュアル系バンド」と聞いてみなさんは何を思い浮かべるだろうか。恐らく頭に浮かぶのはラルク アン シエルやグレイ、最近ではベビーメタルを挙げる人があるかもしれない。(ベビーメタルはV系としても認知されているらしい)

 

ところがフィリピンで同様の質問をしてみると予想外の答えが返ってくる。「日本のロックバンドで知っているバンド言ってみて」と問いかけると、「Uchusentai:Noiz!」と返ってくる。少なくとも昨年2016年3月の時点ではそうだった。皆さんは彼らをご存知だろうか。

 

Uchusentai:Noiz(以下:宇宙戦隊)は日本のインディーズシーンで活躍するビジュアル系ロックバンドである。日本のシーンではある程度の知名度があるが、一般人にはあまり知られていない。ところが、場所をフィリピンに移せば、2016年3月にはテレビ業界最大手であるABSCBNの人気番組「I love OPM」への連続出演、雑誌、ラジオ出演、Youtube ビデオは曲によってはフィリピン人のYoutube 閲覧数が100万を越えるものもある。詳しい比較は行っていないが、フィリピンでの知名度は日本の何倍にもなるのではなかろうか。

 

このコラムでは、日本のインディーズ・バンドが、フィリピンの音楽シーンにどう進出していったのか、企業としてサポートをお手伝いした側の視点から、日本人ミュージシャンのフィリピン進出サポート・体験記」として、お伝えしたい。

 

フィリピン進出のきっかけ
宇宙戦隊がバンドとしてはじめてフィリピンに来たのは2011年のことであった。もともと彼らは「地球の平和を守るバンド」というコンセプトで活動を行ってきており、チャリティーライブや、慈善活動も行うバンドであった。メンバーはボーカリスト「エンジェル☆タカ」を始めとする宇宙人5名。彼らは地球の平和を守るために宇宙から降り立ったスーパーヒーローなのだ。平和維持活動と称する彼らのライブ公演も現在、日本からアジア、アジアから世界へと拡大しつつある。彼らはいかにしてフィリピンに進出することになったのだろうか?話は日本のラジオ番組に端を発する。

 

当時彼らが出演するラジオの企画に、フィリピンの子供たちに歯ブラシを届けよう、というアイデアが持ち上がった。宇宙戦隊は地球を守る慈善活動も行っているのだが、それ以後話を聞いたファンから次々と歯ブラシが送られてきて、気がつけば数万本、バンドは勢いでフィリピンへ行く約束をしてしまった。そこでバンドのプロデューサーを通して筆者に連絡があり、歯ブラシを必要としている孤児院や福祉施設をアレンジしてほしい、との打診があったのだ。これがフィリピン進出へのきっかけとなる。

 

 

フィリピンのエンタメシーンに入り込む
バンド側としても、せっかくフィリピンに行くなら音楽活動もしてみたい、というのが希望だった。しかし、フィリピンで全く無名の日本のバンドが突然やってきても、集客ができるはずがない。そこで提案したのが、現地のコスプレイベントへの参加だった。イベント主催者と交渉を行い、バンドメンバーが審査員を務める代わりに、ライブパフォーマンスの時間を設けてもらえることになった。

 

 

2011年にフィリピン・ダバオ市にて、Uchusentai:Noizのフィリピン初ライブが行われた。歯ブラシを届ける計画をコスプレイベントの時期に設定し、イベントの数カ月前からコスプレイベントで日本のミュージシャンがライブを行う、という告知も行っていた。市内の全てのコスプレ団体、日本文化関連グループにもマーケティングを行った。そのため当日ライブ会場には2000名を越す観衆が集まった。このライブをきっかけとして、翌年バンドはマニラで行われるフィリピン最大級のコスプレイベント、「Best of Anime」から招待を受けることとなる。

 

 

知名度UPをしよう
さて2012年にマニラでパフォーマンスの機会を得た宇宙戦隊だったが、首都圏でワンマンでライブを行うにはコアなファンが圧倒的に足りない。少なくともフィリピンのコスプレファンだけでも味方につけたい。マニラでの公演までにバンドの認知度を大幅にUPさせておく必要があった。そこで提案したのが、有名タガログ語曲のカバーである。

 

フィリピン人は子供の頃から欧米のロックやポップスを聞いて育つ。アメリカのヒットチャートに、チラホラとタガログ語ソングが混ざってくる、というのがフィリピン音楽ヒットチャートの略図である。そこに日本人バンドによるタガログ語曲のカバーをぶつけてみよう、という企画となった。さて考えるべきは、何をカバーするかである。

 

ヒーロー戦隊、地球を守る宇宙人、ビジュアル系というコンセプトにマッチし、なおかつ多くのフィリピン人が知っている曲でなければならない。音楽関係者と話し合った結果、最終的にフィリピンの国民的バンド、カミカゼ(KAMIKAZEE)のNARDAという曲を選ぶこととなった。この曲はフィリピンのヒーロー物ドラマ「NARDA」の主題歌である。ドラマも、ヒロインが変身してスーパーヒーローになる、という物語なので、宇宙戦隊のコンセプトにも合う。楽曲の認知度も申し分ない。協議を経て、バンド側は急遽、編曲、レコーディング、PV撮影の準備に取り掛かった。

 

2012年8月、宇宙戦隊がYoutube上で「NARDA」のカバーソングをリリースすると、即座にとんでもない状況になった。タガログ語ソングをカバーしている日本人バンドがいる!ということで噂が拡散し、掲載から3日でPVが30万件を突破したのだ。最終的にはPV数は100万を突破、寄せられたコメントも5,000を越えた。

 

 

法的な問題もなんとかクリア
カバーソングのヒットにより一気に知名度が上がった宇宙戦隊であったが、人様の楽曲を勝手にカバーしてビデオを作って良いはずがない。ライブまでにYoutube公開ができなければ宣伝にならないので、早急に著作権の問題をクリアしなければならない。ところが著作物二次利用の許可を取るために関係者をあたり、契約書を作成して、使用料を払って、・・・とやっている時間は全くなかった。

 

我々はKAMIKAZEEの事務所へ連絡し、バンドから楽曲使用の承諾を直接得ようと試みた。あわよくばバンドからレコード会社に話をしてもらおうという無謀なアイデアだ。通常ならばこのようなアレンジがまかり通るはずがないのだが、何しろ時間がなかった。結局必死の説得の末、リリースの2日前にぎりぎりで使用許可が下りた。ほとんど奇跡である。なお、バンドはそれからもタガログ語ソングのカバー曲を多数リリースしているが、この後は全て通常通りの許可プロセスを踏んでいる。

 

Youtubeの書き込みには当初、「楽曲を許可無く使用している」などの誹謗中傷が多少なりとも存在した。実際は使用許諾も、バンドからの承認も受けていたのだが、裏側の事情をファンに伝えるすべもなく、頭を悩ませていた。しかしながらこれら諸問題も、イベントにKAMIKAZEEのメンバーを招待する、音楽の専門誌に取り上げてもらう、等の配慮を行うことにより、フィリピンのロックファンからも正当に認知されることになった。

 

現地団体とのコラボレーションを行う
さて、ライブ、興行で収益を得るためには、当然の事ながら現地での営業許可が必要となる。しかし、その辺は餅は餅屋、イベンター等とのコラボレーションで解決していくのが最も確実だ。宇宙戦隊も同様、マニラのイベントオーガナイザー、レコード会社、雑誌社などとコラボを行い、また国際交流基金、大使館などの政府系団体にもご協力頂いた。そしてこれらのコラボにより、バンドは更に認知度を高めて行くこととなった。

 

 

日本にいる間にもファンと交流する
宇宙戦隊はライブバンドある。日本では年間100本以上のライブを行っている。そのため、彼らが現地で興行を行えるのは多くても年に1度か2度くらいのものである。ただでさえ移り代わりが激しい音楽シーン、年に2週間ほど訪問するだけでは、ファンに忘れ去られてしまう。そこで重要となるのは、日本にいる間の現地向け広報活動である。宇宙戦隊もフィリピン向けに、SNSを使用した英語での広報活動を行っている。特にフィリピンツアーの前には、「今から行くよ」というメッセージを積極的に発信することで、ファンとの親密度を上げる。ちなみに、フィリピンではインターネット人口の93%以上がFacebookアカウントを所持しているという。利用しない手はないだろう。

 

 

 

まとめ
宇宙戦隊がフィリピンでライブ活動を開始してから、6年が経過しようとしている。その間CDをリリースし、テレビにも出演した。また、日本でチャリティ・コンサートを行い、フィリピンの台風被災地へ義援金を送り、奨学金プロジェクトも立ち上げた。列挙すれば華々しく感じられるかもしれないが、これらは全て彼らの地道な営業努力の賜である。シーンへ入り込むきっかけづくり、認知度をあげる活動、他団体とのコラボレーション、ファンとの交流、SNSによる広報活動。フィリピンに足繁く通い、これらをルーチン化する。バンドはそうして少しずつ知名度を上げていった。

 

この「日本人ミュージシャンのフィリピン進出サポート」は、単なる体験記だ。一般化するにはあまりにケースが特殊である。しかしながら、「バンド」という商品を「フィリピン市場」に売り込むという意味では、ビジネス活動の一例として参考になるのではないかとの思いで執筆させていただいた。特に日本のミュージシャン、音楽関係の方々へのエールとなれば幸いである。